ベルサミン官房長官は29日午後、マルコス大統領による新閣僚・新長官人事を発表した。次期国家警察長官には、ドゥテルテ前大統領とその盟友のキボロイ師=新興宗教「イエス・キリストの王国」教祖=の逮捕作戦を実施した国家警察犯罪捜査隊(CIDG)のニコラス・トーレ隊長(警視長)が任命された。指揮権交代は6月2日。中間選挙で対立するドゥテルテ派が躍進した後に、和解の呼びかけをしていた大統領だが、人事ではドゥテルテ派排除の功労者への「論功行賞」を行った格好だ。
ベルサミン氏はトーレ氏の任命について「警察長官の任命は大統領の絶対的な裁量権。この決定に誰も疑問を呈することはできない。念のために伝えておくが、これは粛清ではない」と強調した。トーレ氏はダバオ地域警察本部長時代の昨年9月、教団施設に「籠城」するキボロイ氏の逮捕作戦を成功させた。同月25日にCIDG隊長に昇進し、今年3月には香港から帰国した直後のドゥテルテ氏を、国際刑事警察機構(インターポール)の手配書に基づき逮捕。キボロイ師逮捕の際は2000人の捜査員と2週間の時間を投じたことから、ドゥテルテ氏の逮捕にはより大規模な混乱が生じるとの観測も出ていたが、即日逮捕・海外移送するという手際を見せた。
先の上院選で史上最多得票を獲得しトップ当選したボン・ゴー上院議員、3位当選のロナルド・デラロサ上院議員など「ドゥテルテ・チルドレン」には、ドゥテルテ氏に続き国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が発付される可能性が指摘されている。今回のトーレ氏の任命は、「ドゥテルテ派掃討」のために最適ともいえる人事だ。一方では融和を呼びかけながら、もう一方では対ドゥテルテの布陣を敷くという、和戦両様の構えを見せたかたちとなった。
▽ゲバラ氏ついに外される
29日には、「政府の弁護士」である訟務長官の交代も発表され、フィリピン大法学部長のダーリーン・ベルベラベ氏が同日中に就任宣誓を行った。前長官のゲバラ氏は、ドゥテルテ前政権では司法相として超法規的殺害問題に対し高まる国際的批判に対応する役割を務めた。今年3月にドゥテルテ氏がICCに逮捕された後、パオロ・ドゥテルテ下院議員ら3人の子どもがドゥテルテ氏への人身保護令状の発令を求める申し立てを行った際は、「ICCは国内で司法管轄権を有しない」という理由で、政府の立場を代理することを固辞。その役目はレムリヤ現司法相が代行することになった。ゲバラ氏に別の政府ポストの提示はなく、民間に戻る予定。ドゥテルテ陣営との対峙(たいじ)に消極的だった同氏が、内閣改造のタイミングでついに外されたかたちだ。
テオドロ国防相、ヘスス・レムリャ司法相、ジョンビック・レムリャ内務自治相は留任が発表された。一方、アニョ国家安全保障担当大統領顧問について、ベルサミン官房長官は「大統領が個人的に決断する」と今後の交代に含みを持たせた。
大学などを管轄する高等教育委員会の新委員長にはシャーリー・アグルピス委員が任命された。居住都市開発省(DHSUD)の新大臣にはホセラモン・アリリング次官が任命された。(竹下友章)