フィリピンのラザロ外相、大野祥臨時代理大使は16日、17億円(約6億6400万ペソ)を限度とするコメ収穫後処理関連機材調達のための無償資金協力に関する公文書を交換した。フィリピンは昨年470万トンのコメを輸入するなど世界最大のコメ輸入国であるにもかかわらず、近代的な収穫後処理施設の整備が進んでいないためコメ収穫後の処理過程で年間100億ペソ=国家食糧庁(NFA)の試算=にも上る損失が出ている。この課題に対応するため、コメの一大生産地であるイサベラ州のカワヤン市に乾燥、貯蔵、精米の収穫後処理を行う複合施設の中核となる各種機材を供与する。ラクソンNFA長官によると、機材は日本大手のメーカーから調達する予定で、施設としては国内最大となる。来週にも起工式を行い、4~6カ月後にも完工を見込む。
▽コメ付加価値を40%向上
式典後、まにら新聞の単独インタビューに応じたラクソン長官は「現在は乾燥できているのは全体の12%、精米は25%。そのため路上やバスケットコートで日光による乾燥が行われているが、その過程で毎年100億ペソ相当コメが損失している。さらに、新鮮な籾を売ることもできていない」と収穫後の処理施設の不足がコメの質・量の側面で損害をもたらしていることを強調。「この施設が完成すれば、1時間に10トンの精米、1回ごとに120トンの乾燥が可能となる」とした。
施設の運営主体はNFAとなるとした上で、「完成したらNFAが農家からすぐに籾米を買い取ることができ、農家の所得向上に直結する。例えば現状では農家はキロ12ペソで籾米を卸しているが、新施設が稼働すればNFAがキロ17ペソで買い取ることができる」とし、農産物付加価値が一気に41%向上することを説明。
供与見込みの資機材がどのメーカーのものになるかについては、「調達は私の管轄ではない」と断りながら「精米機トップメーカーのサタケになると思う」とし「サタケの機材は信頼性が非常に高い。70年代~80年代に供与された機材はまだ動いている」と語った。
政府は28年までに収穫後処理施設を36カ所建設することを目指しており、今回はその一つ。全施設が建設されれば乾燥、精米能力が「100%を超える見込みだ」とした。
世界でも有数のコメ消費国にもかかわらず、コメ自給が長年にわたり実現できていないフィリピン。「今回の機材供与のほかに、日本から得たい協力は何か」との質問に、ラクソン長官は「われわれは備蓄米の保存システムの視察のため、農相と共に近々日本を訪問する予定だ」と明らかにし、「現在われわれは常温でしか保存できず、劣化が早い。日本では温度管理が厳格に行われ保存期間が非常に長い。このシステムをわが国にも取り入れられないか検討したい」とした。
▽コメ消費今後も拡大
式典に立ち会った国際協力機構(JICA)フィリピン事務所の馬場隆所長は「フィリピンは世界有数のコメ消費国であり、一人あたりの消費量も今後拡大すると予想されている」とし、需要のさらなる拡大で比の稲作農業がより多くのコメを安定的に供給する必要性に迫られていることを説明。
「数十年にわたるJICAの協力では灌漑(かんがい)インフラ整備など生産部門に注力してきたが、バリューチェーン(価値連鎖)の他の部門の開発課題を認識しており、協力を多様化している。イサベラ州の施設建設は両国の協力にとって重要なマイルストーンとなる」とした。
署名式でラザロ外相は「この事業によりコメの自給と食料安全保障のマルコス政権の目標達成にさらに一歩近づける。また、最近の台風、地震被害が農家に与えた損失を考えると、非常にタイムリーで重要な事業だ」と強調した。
大野臨時代理大使は「日本には一粒のコメに7人の神様がいる」ということわざを紹介し、比日両国にとってコメが文化的にも重要な存在であることを指摘。今月、小泉進次郎農林水産相が来比した際に、ラウレル農相との会談で農業の貿易、技術移転、持続可能性を推進する協力を進めることで一致したことを報告し、引き続き比政府と緊密に連携することを請け負った。(竹下友章)