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3月9日のまにら新聞から

「包括的列島防衛」の開始を宣言 中国の「海上軍事闘争」に対抗か

[ 1464字|2024.3.9|政治 (politics) ]

中国の習国家主席が軍に「海上闘争」の指示を出した翌日に、フィリピン国防省が「包括的列島防衛」の実施を宣言

 テオドロ国防相は8日、長期的・包括的な主権・海洋権益防衛の新戦略である「包括的列島防衛構想(CADC)」を実施段階に移したことを宣言した。テオドロ国防省は新国防戦略について1月23日に言及し、「この新戦略は、憲法によって防衛・保護が義務付けられているエリアに軍事力を投入できるようにし、比国民、比企業、その他の政府公認事業者が比の主権・主権的権利が及ぶ範囲で自然資源を探査・開発できる状況を国軍が確保するためのものだ」と説明していた。

 これに先立つ7日、中国の最高権力機関・全国人民代表大会(全人代)の軍代表会議で、習近平国家主席は南シナ海や台湾での緊張の高まりを念頭に、「海上軍事闘争への準備と海洋権益保護、海洋経済の発展を統一的に進めよ」と指示を出していた。このタイミングでの比政府の新戦略実施宣言には、中国による「海上軍事闘争」への対抗の意図もありそうだ。

 8日に国防相が出した声明は、新戦略を「比国民が将来にわたって、比の領土、排他的経済水域(EEZ)に正当に有する自然資源の恩恵を自由に享受できるようにするために、防衛能力を高めるものだ」と説明。さらに「これは戦略的アクションであり、実施に逐一命令を必要とするものではない」と強調、国軍の全部隊と司令官に対し、新戦略の遂行に取り組むよう指令を出した。

 

 ▽同盟国・同志国への期待と依存

 新戦略の詳細に関するまにら新聞の取材に対し、国軍のフランセル・パディリャ報道官は「個別具体的な項目については、作戦上の内容に立ち入るため(防衛機密保持上)詳細は明かせない」としたが、セルセス・トリニダッド報道官は全体像について「包括的列島防衛構想は、全ての土地、上空、海域、サイバー・情報空間をカバーし、能力構築、武力の再構築、同盟構築のシフトを含む」とし、同盟国や同志国との安保連携強化を含むものであることを明らかにした。その上で、「国民・国家の防衛というわれわれの職責の遂行力において、多面的・流動的な安全保障環境での作戦行動能力を高める」と説明した。

 フィリピン中国研究学会長で、平和・暴力・テロリズム研究所所長のロメル・パンロアイ博士は、まにら新聞に対し「新国防戦略は米国、日本、豪州、欧州のパートナー国など大国からの支援を資金協力に大きく依存しているとみられ、これは自主防衛の方針に反する」と指摘。また、「中国が比にとって国防上の脅威であるとの誤った考えにも依拠している」と警告した。

 新国防戦略を巡っては、国防省は先月にも中国の動向に対抗する文脈で言及していた。テオドロ国防省は2月7日に比最北で台湾に近いバタネス州マリベス島の比海軍駐屯地を訪問し、施設の増強と駐留兵士を増強する計画を発表。それに中国外務省が反発し、翌8日に「台湾問題は中国の核心的利益の核心であり、超えてはならない一線であり最終ラインだ」とし「フィリピン政府は、操縦され最終的に痛い目をみるのを避けるために、火遊びをすべきでない」と警告した。

 それに対し国防省は2月10日に「憲法に規定された主権と領土一体性を守ることは国防省の義務であり、われわれは長期的に国益を守り能力を高め、脆弱(ぜいじゃくせい)性を克服するために、政府は軍設備や配置職員の増強を含む、包括的列島防衛構想を追求している」と反論。「バタネス州は比領土であり、中国は比に警告を発するような権利関係を有していない。中国の言動は比国民の中国への不信の主要な理由となっている」と反発していた。(竹下友章)

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