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8月10日のまにら新聞から

米国防長官が補給妨害行為非難 比国防相との電話会談で

[ 1881字|2023.8.10|政治 (politics) ]

米国防長官が比国防相と電話会談し中国を非難。比NSC「アユギン礁が奪われれば補給路分断」

外国プレス向け会見に応じた国家安全保障会議マラヤ事務局長補佐(右)、フィリピン大のバトンバカル教授、スタンフォード大のパウエル・プロジェクトリーダー=9日午前10時ごろ、首都圏マカティ市ヘラルドスイーツ・ポラレス・ホテルで竹下友章撮影

 米国防省は比時間9日、オースティン米国防長官とテオドロ比国防相が電話会談を行ったと発表した。オースティン氏は、南シナ海南沙諸島アユギン礁(英名セカンドトーマス礁、パラワン島から約200キロ)で中国海警局が海軍・比沿岸警備隊(PCG)船艇に放水銃を発射し補給業務を妨害したことについて、中国を非難。また台風5号(比名エガイ)被災救援の比米合同作戦で、比米防衛協力強化協定に基づく米軍利用施設の建設予定地として今年新たに指定されたカガヤン州ラルロ飛行場が使用されたことについて、「災害対応への有用性が確認された」と称賛。近いうちに直接国防相会談を行うことで一致した。

 同日、首都圏マカティ市では比国家安全保障会議(NSC)のジョナサン・マラヤ事務局長補佐、フィリピン大海事・海洋法研究所 のジェイ・バトンバカル所長(教授)、スタンフォード大ゴルディアンノットセンターのレイモンド・パウエル・プロジェクトリーダーによる外国プレス向け緊急会見が開かれた。

 NSCのマラヤ氏は「この問題の対応には、南シナ海で起こっていることの透明性を高め、国際法に基づく解決を国際社会に訴えていくことが肝要だ」と強調。「条約に基づく同盟国である米国との間に南シナ海に関する主張で衝突がなく、今年中に合同哨戒が実施できる見込みであることは比が持つ強みだ」と述べた。

 アユギン礁が中国の標的になっている理由についてマラヤ氏は、バトンバカル教授と共に中国にとっての戦略的意味を解説。「中国の南沙諸島3大人工島を建設したスビ、ファイアリークロス、ミスチーフ礁と同様にアユギン礁は十分に大きな岩礁であり、簡単に港にできる環礁内水を備えるなど軍事拠点建設に適した地形。アユギン礁が中国に支配されれば、3大人工島と合わせ南シナ海を分断でき、比が支配するパグアサ島、パタグ島、ラワク島などを孤立化させることが可能となる」と分析した。

 バトンバカル教授はその上で、「中国がアユギン礁を実行支配したら次は、潜水艦海路上の近接地であるパラワン島から約100キロのハサハサ礁(半月礁)が標的になる」と付け加えた。

 同教授はまた、中国が放水銃の使用に及んだのは2021年以来2回目で、今回発射された放水銃の水圧は「舟艇を転覆させるほど強い」と指摘した。

 NSCのマラヤ氏は同日の別の会見で「放水銃が(比米相互防衛条約の発動条件となる)武力攻撃に当たるかどうかは議論の余地がある」とし、条約発動の可能性を排除しなかった。

 パウエル氏は、冷戦中の西ドイツ・ベルリン閉鎖を前例として挙げ、中国は小型ボートさえ通さない体制を取ったため「(武力衝突の契機になる恐れのある)『封鎖』を行っているといってよい」と指摘。封鎖への対応には、ベルリン閉鎖の際は空輸作戦で封鎖を乗り越えたことを説明し「さまざまな対応策がありえる」とした。

 ▽反故にされた約束

 今回の事件を受け、中国外交部(外務省)が「比政府は1999年以降数回にわたって(アユギン礁で比海軍が詰め所とする)座礁艦を撤去すると約束してきた」と主張していることについて、NSCのマラヤ事務局長補佐は「これまでの政権のどの公式記録にもそんな約束はない。比の歴代政権は比の主権的権利と管轄権を放棄したことはない」と強調。「職員間のインフォーマルな会話でアイデアが出たという程度の話はあったかもしれないが、政府または政府高官はそのような約束は一切していない」とし「法的拘束力のある約束をしたというのなら、中国側は証拠を示すべきだ」と訴えた。

 バトンバカル教授は「約束というのなら、1999年3月23日の発表された比中専門家グループ会合の共同声明で、中国側は南沙諸島ミスチーフ礁に建設した漁民避難用の施設について『将来的にも民生用であり、比国船も利用可能にする』ことで合意している」と指摘。2015年ごろに中国が同礁を軍事拠点化したことを挙げ「約束を守っていないのはどちらか」と問いかけた。

 アユギン礁の30キロ西方にあるミスチーフ礁は、米軍基地が比から撤退した3年後の1995年に中国が実効支配。2016年仲裁裁判ではアユギン礁などと共に比のEEZ内であることが確認され、中国の占拠と人工島建設は国際法違反と判断されている。

 比外務省は、5日にアユギン礁で海警局による危険操船と放水事件が起きている数時間のあいだ、1月のマルコス大統領公式訪中の後に設置された比中外務省間ホットラインがつながらなかったと公表している。(竹下友章)

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