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4月3日のまにら新聞から

「比を不沈空母にさせるな」 米国との同盟強化にシンブラン教授

[ 1735字|2023.4.3|政治 (politics) ]

安全保障問題第一人者の一人、比大のシンブラン教授がフォーラムで中国との戦争回避について議論。比への米軍中距離ミサイル配備を「中国は座視しない」と警告した。 

オンラインで登壇するシンブラン教授=3月31日

 著述家・地政学アナリストのウィルソン・リー・フロレス氏が主催するパンデサル・フォーラムに3月31日、安全保障問題で代表的な論客の一人であるローランド・シンブラン教授=フィリピン大=が登壇した。同教授は「ロシア・ウクライナ戦争は決して他人事ではなく、われわれの地域にも台湾、北朝鮮そして南シナ海と引火点は複数ある」と述べ、アジア地域での軍事紛争発生の危険を指摘。冷戦、そしてウクライナ危機からの戦争回避のための教訓について論じた。

 同教授は「ロシア・ウクライナ戦争は昨年突然発生したのではなく、2014年のクリミア危機から続いている」と説明。その背景には北大西洋条約機構(NATO)が加盟国を拡大し、ロシアに向けたミサイルを配備していることが「緊張激化をもたらしていた」と指摘した。

 一方アジアでは、「冷戦後に米国が中国封じ込めの動きを強めている」とし、2019年トランプ政権下で米露間中距離核戦力全廃条約(INF)を破棄したため、米国がアジアの同盟国への中距離ミサイル配備が可能となった点を問題視。

 「米軍は最近、米非営利シンクタンク『ランドコーポレーション』に日本、豪州、韓国、比、タイというアジア・大洋州米同盟国に中距離ミサイルの配備の説得が可能かどうか調査を依頼していた」と報告し「ほとんどの同盟国がミサイル配備には消極的という結果となったが、同盟国は米国の情報機関の国内活動、米軍による港湾・領空の利用を容認している」と述べた。

 比については、「比米防衛協力強化協定(EDCA、2014年締結)により米軍事設備の比国内配備が可能となっている。つまり、米国は比に中距離弾道ミサイルを配備できる状況にある」とし「配備されれば地域の状況は更に悪化する。中国は座視しないだろう」と警告した。

 中国の軍事拡大については「防衛予算を増やし、南シナ海で実行支配する複数の島々の海軍設備を増強・強化している」とし、それは「太平洋丸ごと『米国の湖』のように展開する米国第7艦隊、特に攻撃型原子力潜水艦配備への対抗措置だ」と分析。「米国は強くなった中国に脅威を与え続けてきた。中国の南シナ海への艦船配備も米の封じ込め戦略への対抗だ」とした。

 その上で、同教授は、国外に800カ所以上の軍事拠点を持つ米国に比べ、中国の南シナ海での軍展開を「まだ自衛的だ」と指摘。「中国は過剰な軍事拡張をして崩壊したソビエト連邦の失敗から学んでおり、あくまで米国の太平洋における軍拡に対抗しているに過ぎない」とした。

 一方で米国に対しては「地域で侵略的な力になりうるのはむしろ米国だ」と指摘。「同国はアジアの同盟国との関係をより強化することで、中国を孤立化させようとしており、われわれの島を米軍の不沈空母化しようとしている」とし「この動きは極めて挑発的であり、決して手を貸してはいけない」と訴えた。

 更に「英国が米英豪安保枠組みAUCUSを通じ、原潜を豪州に派遣することで地域への軍事関与を強化しているほか、フランス海軍も地域への関与を強めている」と指摘。「欧州でロシアを戦争に追い込んだ大国が今度はアジア・大洋州地域に影響力を行使しようとしている」と警告した。

 こうした状況で「インドネシア、マレーシア、ベトナムなど東南アジア諸国連合(ASEAN)は軍備増強を急いでおり、軍拡競争はもう始まっている」とした。

 アジア地域での武力衝突回避の方法について同教授は「南シナ海で領土問題に関する対立が管理可能な程度に抑えられているのは、ASEAN諸国が中国と強い経済関係を有しているからだ」と指摘。「米国や中国、日本とは軍事関係を強化するのではなく、経済関係と文化交流を強化し、武力による威圧でなく対話を続けるよう政府に訴え続けることが重要だ」と提言した。

 シンブラン教授は「イボン・データバンク」調査研究所部長会議議長教授、非核フィリピン連合(NFPC)全国議長、フィリピン大機構理事などを歴任。反核運動、米軍基地反対闘争、バタアン原発反対闘争に取り組み、フィリピンの独自外交推進を訴えてきた。日本にも度々来日し、日本の市民団体とも交流がある。(竹下友章)

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