「日刊まにら新聞」ウェブ

1992年にマニラで創刊した「日刊まにら新聞」のウェブサイトです。フィリピン発のニュースを毎日配信しています。

本日休刊日

4月18日のまにら新聞から

「念ずれば通ず」 訪日直前に動いたVAT騒動

[ 1902字|2023.4.18|経済 (economy) ]

日本人商工会議所の嶋田前会頭に聞く(上)。印象深いのは昨年5月の商工会議所総会、対面開催は3年ぶり

嶋田慎一前会頭=3月31日、三井物産マニラ支店で竹下友章撮影

 昨年4月からフィリピン日本人商工会議所会頭を務めてきたアジア・大洋州三井物産の嶋田慎一郎マニラ支店長が3月31日、会頭の任期を終えた。その任期中、コロナ禍からの活動再開、マルコス新政権発足、経済特区庁(PEZA)登録企業への付加価値税(VAT)ゼロレート消滅問題、記録的インフレ、大統領公式訪日など、比の日系企業を取り巻く環境は大きく変動。激動の1年間について、嶋田前会頭に話を聞いた。(聞き手は竹下友章)

 ―会頭として印象に残った仕事は。

 昨年5月の商工会議所総会の開催。対面による開催は3年ぶりだった。コロナ感染の最大の波が1月にあった後で、世間ではまだ自粛ムードが残っており、どの段階で対面活動を再開するかが大きな議論だった。総会は数百人規模の集まり。「もし集団感染が発生したら」という懸念と、コロナ禍で対面交流が長らく制約されているところに「商工会議所に入ってて良かった」と思ってもらえる機会を提供しなくてはという思いが半々。リスクと便益を天秤にかけ、思い切って行うことを決断した。実は相当ドキドキしながらだったが、無事に総会を開催することができた。会員同士の関係・所属意識の強化に貢献できたと思う。

 次は大使公邸で昨年9月に実施した「暑気払い」。例年の新年祝賀会が3年連続で見送りとなっており、なかなかお邪魔する機会のない大使公邸に皆で集まることができていなかった。「暑気払い」は初めての試みだったが、越川和彦駐比日本国大使に「暑気払いの開催をお願いできませんか」と提案したところ、「いいですよ」と快諾してくれた。マニラ日本人会の高野誠司会長も「やってみましょう」と賛同してくれ、大使館の皆様にも多大なご協力を頂いた。

 結果、300人を超える参加があった。参加者たちが子どもみたいな笑顔で楽しく歓談している姿を見て「やってよかったな」と涙がでそうになった。

 ―VAT問題もあった。

 昨年4月に企業復興税優遇法(CREATE)が発効して以降、PEZA登録の日系エコゾーン・ロジスティクス・サービス(ELSE)企業から、「内国歳入庁(BIR)が納税を求める通知を送ってきた」という相談が来はじめた。

 そこでまず、藤井副会頭を通じ、パンガPEZA長官代行=当時=に相談した。その後、「具体的にこういう問題が出ている」という内容を盛り込んだ説得的な要望を固めるため、商工会議所の中で意見交換会を実施。現状を一定程度把握した。

 その上で、ジョクノ財務相など様々な要人に相談に行った。パスクアル貿易産業相にいたっては何回同じ話をしたか分からない。越川大使の主導で、能の催しで大使公邸に招待されていたパスクアル・ジョクノ両大臣に説明をしたこともあった。

 大使からも様々な形で協力頂きながら、昨年末には商工会議所から要望書を出した。年が明け、マルコス大統領訪日まで1カ月を切った1月中旬にジョクノ財務相が大使公邸を訪問したときは、「大統領が訪日するとき、VAT問題の話なんてしたくないはずだ。訪日前に問題を解決するため、早急に通達を出してもいいのでは」と提案した。

 そうした働きかけが実り、大統領訪日直前の2月1日にELSE企業を戦略投資優先計画(SIPP)に入れると解釈する投資委員会(BOI)理事会決議が出て、直後その決議を尊重する旨のBIR通達が出た。「念ずれば通ず」と感じ、とても嬉しかった。

 ―CREATE法発効で何が変わったのか。

 CREATE法で企業優遇措置許認可に関して貿易産業省傘下のPEZAの権限が弱くなり、その権限は基本的に財務省とその傘下機関に移った。一番重要な機関は徴税を担うBIR。歴史のある機関で、所管の財務省がどれだけコントロールできるのか不透明な部分もある。

 たしかに2月の通達でBIRが「私は徴税しません」と言ったのは大きい。しかし、納付済みVATをいつからさかのぼって還付するかなどまだはっきりしないこともあり、完全な解決ではない。

 ―還付は受けられそうか。

 還付制度自体は法律にある。日本企業は真面目だから、納税を求められると払ってしまうが、その後の還付手続きが問題。というのは、還付申請をすると、その企業は税務調査に入られると言われており、申請しにくい状況がある。この慣行はジョクノ財務相も知っている。3月20日に同相が記者会見で「支払ったVATは還付する」と明言したのは一つの大事な動きだ。

 われわれは財務省と話ができる。徴税状況の「混乱」の改善に向け働きかけを継続していく。(続く)

経済 (economy)