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7月18日のまにら新聞から

南シナ海領有権 仲裁裁判で比が完勝 今後の舞台は外交交渉に

[ 1625字|2016.7.18|政治 ]

 世界の注目を集めた南シナ海の領有権問題を巡る仲裁裁判で、海洋進出を広げる中国に、軍事的にも経済規模も劣るフィリピンが勝利した。比の訴えがほぼ全面的に認められたものの、今回の判断をもって問題が解決したわけでない。今後の舞台は司法から、比中両国による外交交渉に移る。メンツが丸つぶれとなった中国と着地点を見つけることができるのか。ドゥテルテ政権の政治手腕に大きな期待が寄せられている。

 「最大の難関は仲裁裁判所が『裁判の管轄権を有する』と認めるかにあった」。こう語るのは比側弁護団の一員、ハルデレサ最高裁判事だ。この言葉には、中国に完勝した比政府の巧妙な作戦が表れている。国連海洋法条約では仲裁手続きによる紛争解決が定められている一方、298条で締約国は同条約で定められた仲裁手続きを受け入れないと宣言できる、と明記されている。具体的には領海、排他的経済水域(EEZ)、大陸棚の境界画定に関する紛争、軍事的活動が含まれる紛争などが298条の適用範囲となる。中国は2006年に境界画定に関しては仲裁手続きを受け入れないと宣言しており、比政府にとっては、いかにして裁判管轄権の認定まで、こぎ着けるかが重要だった。

 こうした条約の除外規定をも熟知した比政府は「この裁判では、条約の解釈と適用に関して仲裁を求めているのであり、海洋の境界画定は求めていない」と主張し続けた。あくまでも南シナ海に浮かぶ諸島の条約上の位置づけや、中国が独自に設けた「9段線」に対する法的解釈を求めている、という論法だ。15年10月、常設仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)は裁判管轄権を認めた。中国は審理に参加し、手続きの不当性を法廷で訴える手もあったが、終始参加を拒否し続け、結果的に完敗を喫した。

 比の訴えがほぼ全面的に認められた判断が出された以降も、中国は「いかなる結果も受け入れない」と強硬姿勢を崩していない。日本や米国など国際社会は審理の結果を順守するよう中国に迫っている。しかし、同条約には罰則規定などは明記されておらず、実質的な「法的拘束力」はないに等しく、中国が今後、どのような動きにでるかは不透明だ。世界各国にとって重要なシーレーンである南シナ海で安全な航行が確保されるのか、注目が集まっている。

 比が抱える問題としては、サンバレス州沖に浮かぶスカーボロ礁での漁業、リード礁(比名:レクト礁)の資源開発、ミスチーフ礁など中国に占拠された南沙諸島の動向が焦点となる。

 スカーボロ礁は「比のEEZにあり、他国のEEZとは重ならない」と認められた。また比漁師の伝統的漁業権が認められたため、中国政府による漁業妨害の違法性が断定された。今回の判断では比漁師だけでなく、中国、台湾、ベトナムの漁師にも伝統的漁業権が認められた。つまり、比漁師の活動を妨害しない限り、中国の漁師もスカーボロ礁で漁ができる。今後、ドゥテルテ政権が中国と交渉し、比漁師の漁業活動を十分に確保できる妥協点を探すことになるだろう。

 有望な海洋資源の存在が指摘されているリード礁も比のEEZ内にあると認定された。この結果、海洋資源の開発なども比政府が排他的な権利を有していることになった。しかし、中国がリード礁の権益を完全に諦める可能性は少ない。比政府としては不本意でも、産出された資源の分与契約など中国との着地点を模索せざるを得ない状態だ。

 南沙諸島は1945年以降、比、ベトナムなど周辺国が岩礁の開発を進めてきたが、今回の判断で全ての諸島が同条約上の「島」ではないと認定された。中国が人工島を造成したスビ礁は岩ではなく、満潮時に水中に水没する「低潮高地」と判断された。この結果、中国の同礁を基準とした領海主張は否定された。しかし、今回の判断が南沙諸島における問題の解決策を明示したわけではないため、人工島を拠点とした中国の軍事活動に歯止めがかかるかは定かではない。(鈴木貫太郎)

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