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9月27日のまにら新聞から

「政府は貧困構造を理解せず」 土地分配などネグロス島の現状 NFSWのロサンデ氏に聞く

[ 1514字|2021.9.27|社会 (society) ]

ビサヤ地方のネグロス島で生まれ育ち、全国サトウキビ労働者組合(NFSW)の事務局長を長年務めてきたジョン・ロサンデ氏に、同島や同労働者を取り巻く現状を聞いた

全国サトウキビ労働者連合(NFSW)のジョン・ミルトン・ロサンデ事務局長=8月

 比サトウキビ生産の56%が集中するビサヤ地方のネグロス島。見渡す限りのサトウキビ畑に囲まれ、一見のどかなこの島ではドゥテルテ政権下で、サトウキビ労働者や農民、人権活動家の殺害が相次ぎ、政府機関が個人を「共産主義者」と名指しする赤タグ付けが頻発している。同島で生まれ育ち、全国サトウキビ労働者組合(NFSW)事務局長を長年務めてきたジョン・ロサンデ氏に、島での労働者を取り巻く現状を聞いた。(聞き手は岡田薫)

 —現政権下で土地分配は進んでいるか

 ドゥテルテ大統領は土地分配を政権の成果として各地で吹聴している。例えばボラカイ島でも先住民トゥマンドックにその場で土地を分配した。たった2ヘクタールだったが「大成果」との印象が一人歩きしている。

 農地改革省によると、現政権が始まった2016〜20年までに3900ヘクタールの土地が分配されたが、受益者は3500人に満たない。同省は18〜20年の分配目標を2万8千ヘクタールとしていることからこれは非常に少ない数字だ。

 —土地分配が機能しないのはなぜ

 2014年に包括的土地分配プログラム(CARP)が失効し、現政権は公式な土地分配プログラムを持たない。歴代政権のネグロス島でのCARPでは、約14万人に16万3千ヘクタールが譲渡されたが、うち75〜80%もの受益者が土地を手放し、大半が元の農園主に買い取られてしまった。受益者には土地分配とともに、効果的なサポートメカニズムが必要だ。サトウキビや農作物からの収入は収穫期に限られる。子どもの学校や日々の出費のため、土地を担保に金を借りる例や、土地を売却する例が後を絶たない。新型コロナによる防疫下で農園の外で仕事が探せずに借金を抱える労働者も続出している。 

 —政府の反共機関をどう見る

 共産主義勢力との軍事衝突を終わらせる国家タスクフォース(NTF─ELCAC)は、地方の軍事化に一役買っている。共産主義の脅威を克服したバランガイ(最小行政区)に、約2000万ペソの「発展支援金」を与え、その70%が農園と市場を結ぶ道路の整備事業に使われている。NTF—ELCACのインフラ整備が想定する受益者は土地無しの農民や労働者個人ではない。国民の税金が大農園システムの強化と維持に使われている。

 これは政府が貧困の構造を理解していないことの表れで、スペイン時代から住民への収奪とそれに対する反乱は常にあった。誤った政策が正されない限り、共産主義者の問題も解決には向かわない。

 —ドゥテルテ大統領をどう思う

 私は前回選挙でドゥテルテ氏に投票していた。彼のためにキャンペーンすら行い、結局投票者1600万人のうちの騙された1人だ。雇用打ち止め(END)の廃止といった労働者寄りの公約を語ったのは当時彼だけだった。農民への土地分配も約束していた。彼であればわれわれの長年の要求が実現するものと信じ、希望を感じていた。

 大統領が変貌した理由としては、大統領就任後のサバイバルゲームの中で、国軍に突き上げられるのが常に気がかりだったのではないか。資本家や大企業、大地主の支持を得るか、私たち民衆の支持を得るか。結局、前者に走り、後者を切り捨てたのではないだろうか。大統領は富裕層出であることから、今となれば「予見できた変化」であり、次期大統領選では教訓にしたい。

JOHN・MILTON・LOZANDE 1968年、西ネグロス州生。同州ビクトリア市で貧しい幼少期を過ごし、地元の国立専門学校を卒業。製糖所で97年まで契約労働者として働く。同年NFSWに加入。2000年から事務局長。

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