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12月29日のまにら新聞から

貧困層は交換経済で暮らしつなぐ 比の防疫措置成否 評価はなお先

[ 1547字|2020.12.29|社会 (society) ]

検証1・ドゥテルテ政権のコロナ防疫措置は経済的犠牲に見合う成果をもたらしたか

コロナ禍の中で自宅の玄関口を使い、サリサリストアを始めた首都圏ナボタス市の住民=11月、石山永一郎撮影

 2020年は新型コロナに始まり、新型コロナに終わった1年だった。世界の誰もが同じことをこの年の瀬に感じているはずだ。その中で、フィリピンの防疫対策をどう評価すべきかを検証した。

 ドゥテルテ政権が徹底した防疫措置に踏み切ったのは近隣諸国と比べても早かった。まず2月の春節明けから、中国、香港、マカオ、韓国からの旅行者の渡航を原則禁止とした。3月17日からは日本を含むほとんどの国からの入国をフィリピン人、永住者、外交要員を除いて禁じた。

 ▽防疫強化後に感染爆発

 17日時点の比の累積感染者数はまだ187人。死者は12人。同日時点で感染者852人、死者28人に達していた日本よりも新型コロナに感じる脅威はまだ小さかったが、ドゥテルテ政権はその後も「世界で最も長く厳しい」(AFP通信)と言われるに至る防疫措置を続けた。

 しかし、皮肉なことに最初の感染爆発は首都圏などが防疫強化地域(ECQ)に指定された直後の3月末から始まり、1カ月後の4月17日には累積感染者は5878人、死者は387人に至る。さらに7月末からは猛烈な第2派に襲われ、8月2日に累積感染者は10万人を突破、26日に20万人、9月26日に30万人、11月11日に40万人をそれぞれ超え、28日現在の感染者数は約47万人となっている。

 ▽マイナス8.1%成長

 比統計庁によると、コロナ禍での失業は450万人に達した。世界銀行による今年の比の成長率予測はマイナス8・1%。比では今年新たに270万人が貧困状態に陥ったと推計され、貧困水準の回復は少なくとも22年までかかる見通しだ。

 飢餓さえ広がっていると言われる中、比の庶民はこのコロナ禍をどうやってしのいでいるのか。

 11月に訪れた首都圏ナボタス市のスラム街では、家の玄関口などに小資本でサリサリストアを新しく開業している家が目立った。同地区に住むローズマリー・ダイアパンさん(24)は「わずかでも収入になればとみなが始めるようになった」と話した。ネットを通じた物品販売をにわかに始めた人々も多いという。貧困層が多い地区では、働き口を失って地区外から入って来る現金が減った分、サービスや物の地区内での交換で、人々はかろうじて暮らしをつないでいた。

 比人の多くは厳しい防疫措置についても「やむをえない」「規則を守らない人たちが悪い」などと話す。欧州で起きたような防疫規制に反対するデモなどは比では起きなかった。

 ▽再生産数再び上昇

 第2波による感染拡大が収束を見せ始めた9月16日にロケ大統領報道官は「最悪の時期は脱した」と述べた。実際、9月半ば以降、感染者数は減少傾向を見せ始めた。12月になってからは新規感染者数が千人台の日が多くなった。クリスマスで感染検査を受ける人が減ったという事情もあるとみられるが、27日、28日の新規感染者数は2日連続で千人を割った。

 マニラ市のマニラドクターズ病院のエピフェニア・コリャンテス医師は「新型コロナで訪れる患者数が減ってきた。重症患者も以前より少なくなった」と声を弾ませながら言う。

 しかし、フィリピン大などの研究グループ「OCTAリサーチ」は、1人の感染者が他の人にうつす平均数を示す実効再生産数が、11月までは全国で1を切っていたが、12月22日の時点で全国平均で1・03、首都圏では1・15に拡大。「新規感染者は来年1月末には1日最大4千人に達する可能性がある」と警告している。今後のワクチンの普及と効果も未知数だ。ドゥテルテ政権による「世界で最も厳しく長い」防疫措置が経済的犠牲に見合う成果をもたらしたかどうかの評価は、まだ先送りすべき状況が続いている。(石山永一郎)

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