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1月4日のまにら新聞から

新春対談2 増える比の法律トラブル、弁護士岡崎さん

[ 2068字|2016.1.4|社会 (society) ]

 フィリピン移住に最後の人生を賭ける邦人たちを描いた新著「脱出老人」の著者で開高健ノンフィクション賞受賞の水谷竹秀さん(40)と、首都圏マカティ市の法律事務所で、アジアでの日本の法律の「弁護士需要」について法務省の委託を受けて調査している岡崎友子弁護士に「新春の所感」などを聞いた。

 ▽法曹界に進んだきっかかけは

 最初から弁護士になりたい、正義を実現したい、などと思っていたわけではない。横浜と埼玉で中高時代をすごしたが、やりたいことは見つからなかった。大学では教職課程をとったこともあった。ただ1年のとき、自分以外に友人の講義ノートを集めるのが好きになり、ほとんど出席していない憲法の授業で最高点をとったことがきっかけとなった。法律の世界に興味を持ち始め、難しい司法試験で自己実現しようと考えた。思い立ったらやらないと気がすまない性格のためで、24の時、合格した。

 ▽その後、法律事務所に勤めたのか

 東京・丸の内にある法律事務所に入り、海外向けの渉外法律部門をチームで担当した。専門は金融取引法(旧証券取引法)で、顧客は証券会社や銀行。契約書や(法的)組成に携わった。   

 ▽印象に残る仕事は

 ソフトバンクのコーポレートハイブリット債という株と社債の中間的な債券で、2千億円を一般投資家向けに公募するというもので、日本初の試みだった。英国やケイマン諸島の英文書類をもとに日本語に直しながらの難解な仕事をなんとかこなした。

 ▽2015年のマニラの仕事で印象に残るのは

 大企業が訴えられるケースが増えている。法律情報を提供し、生活に寄り添うサービスをと心がけている。14年10月から毎月、マニラ新聞に「法律コラム」を掲載しているが、それを読んだ30代の日本人男性から「比の企業に採用が決まったが、外国人だからSSS(社会保障制度)には入れないと採用担当者に言われた」との相談があった。SSSに加入させる義務が比企業にあることを理解してもらい、結局、会社は日本人男性の要求を受け入れた。うれしかった。

 ▽仕事ではほかにはどのようなことがあるか

 日比企業の合弁に絡むトラブル、特に製造業の合弁解消に伴うトラブルが増えている。合弁をやめる場合をきちんと想定せず、細かいところまで決めていない。決議要件の割合などで双方が対立し、弁護士同士で話し合う必要が出てくる。時間と費用もかかる。日比企業間の小さな不信がきっかけで、大きな不信に拡大していくので、注意が必要だろう。

 ▽弁護士として比でのアドバイスは

 日本人絡みの保険金殺人などが解決せず、警察制度があるのに運用で問題を抱えているようだ。「いかに自分で身を守るか」ということが比では重要になってくる。同時に新たなケースとして「知らないうちに自らが加害者になって訴えられる」という事件も起きている。最近も日本人が犯罪の加害者に仕立てられたケースが2件あった。加害者として扱われ、これから自分がどうなるか、希望を失ってしまうこともある。お金欲しさで訴えられるケースがある。比では訴えられたときどうするかという意識も持つ必要がある。

 ▽法務省の委託業務については

 まずシンガポール、タイ、インドネシアで14年から調査委託が始まっている。日系企業の進出が増えていることから、企業や在留邦人も増え、法律トラブルも増えている。国としてなにか支援ができるか、それに日本弁護士連合会も協力できるかという意図から法務省が始めており、マニラでは15年から私が委嘱された。比には日系の大手法律事務所が進出していない。しかし、新日系人、戦前からの旧日系人、また「困窮老人」など多くの法律に絡んでくる問題を抱えている。毎月それぞれ1回、法務省、弁護士連合会国際業務推進室とスカイプを通じて東京と会議を開き、打ち合わせをしたり、私が各企業を訪問し悩みごとを聞き、アンケート調査などもしている。アジアのビジネス・マーケットの需要は広がっており、今後も増えていくだろう。法務省としては、国民の税金を使ってなんらかの支援が必要なのかどうか、また人権活動的な支援も必要なのか、などを基礎調査している段階。

 ▽最後に日本の弁護士を取り巻く情勢について

 法律相談の案件が減っているのか、あるいは法科大学院の設置で弁護士が増えているのか、分からないが、弁護士の仕事が以前よりきびしくなっているという事情は数年前からある。法律事務所がなく、携帯電話で相談に応じる「携弁」や、事務所に机もなく、スペースを借りるだけという「軒弁」という呼び名が生まれ、弁護士になってすぐ事務所をつくることができる「独弁」など、なりたての弁護士の世界は厳しい。法律事務所で先輩に実務を教えられるという以前のような経験がないため、弁護士の質の低下も招いている。刑事事件での国選弁護人の取り合いという状況も生まれている。法科大学院についても、質の低下が問題になっている。(聞き手・木原実郎)

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