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9月14日のまにら新聞から

追跡睡眠薬強盗1 主犯は初老の夫婦 郊外レストランへ誘う

[ 2236字|2015.9.14|社会 (society) ]
マカティ市のアヤラトライアングル。ここで小休止した後、犯人2人組と再会した

 関東地方の大学に通う日本人男性が8月中旬、睡眠薬強盗の被害に遭い、現金800ペソを盗まれた。実はこの大学生、首都圏マカティ市内の日系企業でインターンをするため、被害4日前に初来比したばかり。連載1回目では、右も左も分からない状態で被害に遭った大学生自身が、犯人グループと遭遇したいきさつや手口の詳細をリポートする。2、3回では、本紙記者が被害当日の大学生の足跡をたどりながら犯行現場を特定、睡眠薬強盗犯への肉薄を試みた。

 ■失恋に効く国へ

 今年5月に好きな子に振られてしまい、日本を逃れて海外でインターン(職業体験)して、英語力を磨こうともくろんだ。ネットサーフィンしていたら、フィリピンは失恋の癒やしに有効という比外務省のうたい文句が目に付いた。キャッチフレーズにひかれて来比したら、恋に胸をときめかせるどころか、睡眠薬でふらふらにさせられるとは思いもしなかった。どうやら強盗に襲われたようだ。

 来比して4日目、早く土地勘をつかもうとマカティ市内をぶらぶらしていた。午後1時ごろ、マカティ・アベニュー沿いのマクドナルドの前で店内の様子を眺めていたら、60代と見られるフィリピン人夫婦が英語で話しかけてきた。夫は痩せ身で笑顔を絶やさず、穏やかな語り口は、小学校の教科書に載っていたインドのガンジーをほうふつさせた。妻の方は対照的に小太りで、一度話し出すと止まらないタイプだった。「フィリピンは初めて?」と聞かれた。あとは、他愛のない会話が続いたが、自分の英語が十分通用するので気を良くした。一緒にショッピングモールに行こうと誘われたが、1人で気楽に行動したかったので、丁重に断って夫妻と別れた。

 ■20分後に「再会」

 それから20分ほど後、アヤラ・トライアングルで小休止して大通りに戻ったら、また「ガンジー」夫妻が話し掛けてきた。偶然の再会にうれしくなり、再び女性と立ち話をした。今度は、新たに妻の友人という女性2人を連れており、4人でショッピングモールに向かうという。新たに加わった2人はバギオから友人たちと旅行に来ているという。これも何かの縁と思い、昼食を一緒に取ることにした。

 正確な行き先を教えてはくれなかったが、すぐに着くというので、夫妻らに連れられ、アヤラ・アベニューでバスに乗った。数分後、たどり着いたのは、クバオのファーマーズ・プラザ。色とりどりの果物が所狭しと並べられており、異国に来たのだという実感がふつふつとわいてきた。午後2時ごろ、近くのレストラン、Rufo’sに入り、皆でビールを飲み、チキン・シシグをほおばった。夫妻の友人ら2人が今度日本を旅行するというので、お奨めの観光地を教えると、これから面白いショーを見に行くので一緒に行かないかと言う。日本人の友人と夕食の約束をしていたので、午後6時までにホテルに帰れるのであればと条件付きで同行を決め、店を出た。

 ■行き先はアンヘレス

 ショーが行われる場所にはバスで向かうという。途中で、友人という30代に見える女性2人が合流してきた。どうやら待ち合わせていたらしい。新たに合流した2人も含め、総勢7人で再びバスに乗った。このときは相手を信用していたのであまり気に止めなかったが、どうもバスの時間が思ったより長いことだけが気にかかった。スマホの衛星利用測位システム(GPS)を使って自分の位置だけは常に確認し続けた。

 午後5時ごろ、バスは目的地に到着した。そこは、夜の歓楽街として有名なアンヘレス市だった。ショーまで時間があるので、近くの夫妻行きつけというビアハウスで酒を飲むことになった。どうやら午後6時までの帰宅は無理なようだ。話が違うので、怪しく思えてきた。ホテルから遠出しているという不安もあって、酒は少ししか飲まなかった。夫妻によると、ショーには若い女の子がたくさん出るらしい。それを聞いて、楽しそうだな、と待ち遠しくなった。

 しかし、雲行きが怪しくなってきたのは、妻の方がクレジットカードを見せてほしいと言ってきたときだった。持ってきていないと告げると、途端に不機嫌になり、カードがないとショーは見られないと怒り出した。ショーが見られずに残念という思いはあったが、早く帰りたかったので、帰ることに同意した。このとき、すでに午後7時をまわっており、ビアハウスの会計450ペソは、立て替えということで私が支払った。お金は返してもらえなかった。

 ■襲ってくる睡魔

 クバオにバスで帰り着いたのは約2時間後。バスの中では眠ってしまい、隣に妻の方が座っていたことだけ覚えている。6人と別れ、1人でMRTに乗って、なぜかふらふらになりながらも、なんとかマカティ市J・P・リサール通り沿いのホテルの部屋にたどり着いた。今思えば、恐らくビアハウスで薬を盛られていたのだろう。意識がぼやけてきた。所持品を確認したところ、ポケットやバッグの中からはスマホや電子辞書など重要な物は何もなくなっておらず安心したが、靴下の中に隠し持っていた800ペソが消えていることに気がついた。うわさに聞いていた「睡眠薬強盗」か、と思いながら睡魔に逆らえず、ベッドに倒れ込んだ。

 いつ靴下の800ペソが抜き取られたのか——翌朝目覚めて頭をすっきりさせてから思い巡らせた。おそらく、帰りのバスの中で眠っているすきに狙われたのだろうと推定した。(続く)

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