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2月17日のまにら新聞から

496エントリーと盛況 邦人がビリヤード大会主催

[ 3013字|2024.2.17|文化 スポーツ (culture) ]

日本人が主催するビリヤード大会がケソン市で開かれる。齋藤英樹さんと元プロビリヤード比人選手が共催

(上)多くの選手が参加したビリヤード大会。(下)アマチュアビリヤード大会を主催した齋藤英樹さん(左)と元プロ選手のロエル・エスキリオさん=10日、首都圏ケソン市で沼田康平撮影

 首都圏ケソン市バリンタワック地区のスター・ビリヤード・センターで5~10日にかけてビリヤード大会「チャイニーズ・ニュー・イヤー・アマチュア・ナインボール・トーナメント」が開かれた。同大会はフィリピン政府のゲーム・アンド・アミューズメンツ・ボード(GAB)からプロビリヤード・プロモーターとして認可を受けた日本人の齋藤英樹さんと元プロビリヤード比人選手のロエル・エスキリオさんが主催した。

 ビサヤ地方イロイロ市と首都圏カロオカン市でビリヤード場を経営している齋藤さんは、日本ビリヤード協会などが主催するジャパンオープンで1997年に優勝するなど、国際的な活動歴をもつエスキリオさんとビリヤード大会開催に取り組んでいる。

 齋藤さんによると、今大会は合計496のエントリーがあり、海外で活躍した元選手やセミプロ、育成選手をはじめ幅広い層の人たちが会場内の約30のビリヤード台を埋め尽くした。参加者でブラカン州出身のカーレス・シーレラさん(20)は、大学生でありながらすでに複数企業からのスポンサー支援を受けている。「将来は活躍できる選手になり、世界で勝負したい」と夢を語った。

 大会はナインボールで争われる。5~9日に予選が行われ、10日に勝ち残った128人による決勝戦が開かれた。

 10歳からビリヤードを始めたという比人男性(38)は「ビリヤードは面白く、比では人気。この大会はエントリー料が安く、今後も参加したい」と話した。

 比では試合のエントリー料が払えず、フィナンサーから資金援助を得てビリヤード大会に出場する選手がおり、多くは優勝賞金の大部分をフィナンサーに支払う契約をしている。今大会のエントリー料は男性200ペソ、女性100ペソと安く設定されており、フィナンサーの支援を受けないことで賞金が選手に入るようにすることを考慮したという。

 齋藤さんは今大会について「目標としていた女性の参加率も増え、また白人の参加もあった」と振り返った。「言葉の壁もあったが、周りの手助けもあり、スムーズな大会運営ができた。今後は子どもや女性中心の大会や、過去に世界で活躍した選手を称えるような大会も企画していきたい」と意気込んだ。

 東ネグロス州バコロド市から首都圏に拠点を移し活動しているカーミル・ブワットさん(21)は「比の代表になり、世界でチャンピオンになりたい。賞金は家族のために使う」と話した。ブワットさんは8位に入賞し、賞金6000ペソを手にした。

 ▽政府も盛り上げる

 決勝戦当日、ビリヤード大会会場のすぐ横ではGABがプロビリヤードの免許取得と更新を行う臨時出張所を開設していた。免許取得者は海外進出する際にビザ取得などで政府から支援を受けることができるという。

 GABのノップ・モリレスさんは「イベントや大会を通して若手を育成し、政府としてビリヤード界の発展に努めていきたい」と話した。(沼田康平)

次世代を下支えする

ビリヤードプロモーター齋藤英樹さんに聞く

 ―ビリヤードとの出会いは。

 ビリヤードを題材とした映画「ハスラー」が流行していた影響もあり、19歳のときに始めた。独学で学び、22~25歳まではアマチュアとしてだが、ビリヤードで生計を立てていた。一方、プロを目指して受けた指導で自分のフォームを崩し、ビリヤードの道を諦め26歳で東京都の学校職員に就職。それから49歳までビリヤードは全くやらなかった。

 ―比での活動は。

 49歳で早期退職し、すでに離婚している元妻の実家であるイロイロ市に移住。それから、もう一度ビリヤードと向き合うことを決意。地方遠征もし、選手として活動した。また同市で老舗のビリヤード場の経営者から引継ぎの相談があり、思い切って引き受けた。現在は首都圏カロオカン市にもビリヤード場を所有している。経営も順調。23年4月には日本人プロ選手である小西さみやさんのアテンド(付き添い)も担当した。

 ―政府公認となる。

 ビリヤード場で大会を企画していくうち、多くの比人が推薦してくれたおかげで、かねてより申請していたプロ・ビリヤード・プロモーターのライセンスを23年7月に取得できた。このライセンスは大統領府管轄にあるゲームズ・アンド・アミューズメンツ・ボード(GAB)により発行されるもので、プロ選手や国際的な大会を主催できるようになった。おそらく日本人で初めての取得。

 23年12月には440エントリー(約300人)の大会を開催でき、比で比較的大きな大会になった。これまでライセンス取得後、アマチュア大会2回とプロ・アマ混合大会1回を開催。

 今年は年4回の大会を予定している。

 ―ビリヤードの面白さとは。

 肉体的ポテンシャルが不要なこと。野球で投手を目指すには元々肩が強いことなど先天性が重要になる。ビリヤードは努力とセンスがあれば戦える。

 比では経済的に恵まれない子どもたちがバランガイで酔っ払ったおじさんをビリヤードで負かし、おこづかいを稼ぎ、学費や食費に充てていることがある。比のバランガイでも、ビリヤードを通していろんなドラマをみることができる。

 ―比での課題は。

 わたしの主催する大会ではエントリー料を下げ、バランガイでしかプレーしていない子どもや大人を表舞台へ引き上げたいと考えている。

 ビリヤードではトーナメントに出場する選手にフィナンシャーやマネジャーが付き添い、選手の交通費や食費、エントリー料を負担する代わりに、選手の賞金から手数料を取ることが一般的。割合は1~3割が一般的。

 エントリー料500ペソで大会を開いたときは9割以上がフィナンシャー付き添いだった。2月の大会では男性200ペソまで下げて開催。プロモーションを踏まえて女性は100ペソにした。

 選手が自分のお金で出場し、賞金を自分のものにできる大会を目標にしている。

 ―レベルの把握も課題。

 選手が参加する大会のレンジもしっかり監視していかなければいけない。大会は選手の能力ごとに分けて競い合うため、レベルを誤魔化されて、上手な人が低いレベルで戦ってしまえば簡単に優勝できてしまう。だれもが賞金を欲しい訳で、その選手が参加するレンジの適切性を把握していくことも課題。

 ―比人の強さとは。

 比では闘鶏をはじめマネーゲームが根底にあり、日々の賭け事の戦いに耐えてきた、生き残ってきた精神力がある。表舞台に立ちたいという願望を持ってスラムから立ち上がった強さがある。これは比人の強さになっていると感じる。

 またマネーゲームで鍛えられたビリヤードをする子は地頭が良く、記憶力や気力が強く、数字に強いところも魅力。

 ―今後の展望は。

 次世代の下支えをしていきたい。名前も出ていない、若くてビリヤードが好きな人たちを見いだしたい。そのためにも継続的に大会を開催できるよう経営し、資金的なバックボーンを持ちながら、コミュニティーを作っていく。

 そして、やはり選手たちには世界タイトルを獲得してほしいし、そこまでの道筋を示してあげたい。ゆくゆくはシルバーリーグのような大会を企画し、世界タイトル保持者をリスペクトするような大会を開きたいと考えている。

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