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1月22日のまにら新聞から

成長・充実感じた23年 アジア4強に迫る比代表の1年振り返る 野球比代表コーチ・片山圭二さん

[ 3170字|2024.1.22|文化 スポーツ (culture) ]

昨年三つの国際大会を終えアジア4強に迫った男子野球比代表チーム。コーチの片山圭二さんに比代表の今後について聞く

アジア野球選手権大会に出場した比代表選手と片山コーチ(右)=本人提供

 昨年、日本などと共催した国際バスケットボール連盟(FIBA)W杯やバレーボール男子ネーションズリーグの開催があり、ここフィリピンではスポーツが一段と盛り上がりをみせる。その中で、成長著しいのが野球。比男子野球代表は東アジア杯(5月)で優勝を納め、第19回アジア競技大会(10月)で5位、アジア選手権大会(12月)で4位と、アジア四強(日韓台中)も視野に入る。昨年3つの国際大会を終えた比代表コーチの片山圭二さんに、比代表の成績を振り返ってもらった。(聞き手は沼田康平)

 ―東アジア杯優勝について。

 優勝は狙っていた。2012年以降3連覇中で、10-2で香港を下し今大会も優勝できた。強敵である香港やタイをねじ伏せて文句なく全勝で優勝できた。

 ―アジア五輪初参加の感想は。

 中国浙江省杭州市で開催された第19回アジア競技大会には初めて参加した。野球だけでなく、いろんな競技のある「アジアの五輪」と呼ばれるだけあって、規模が圧倒的。野球が行われた紹興市では選手村や球場、設備の利便性も良く綺麗。選手村の食堂は食べ放題で、各国の料理が楽しめたほか、各国の選手や監督、コーチと交流もできた。幸運にも、日本の甲子園と韓国のプロ野球を経験し、東京五輪の韓国代表でもコーチを努めた山本一彦投手コーチ(在日韓国人、チェ・イルオン)と会い、選手育成や試合展開について教えていただいた。また女子ソフト日本代表の上野由岐子さんともお話をさせていただいた。

 ―アジア競技大会を振り返って。

 予選1勝2敗、順位決定戦2勝で全体5位だった(注1)。初戦の日本戦は140キロ以上投げる一番球速の速い投手を起用。日本は社会人代表で構成されていた。試合を通して、大きな失策なく、また中継ぎ投手が5三振を奪うなど収穫もあり、何より目標としていた9回コールド負けをしないことを達成できた。

 打倒中国を掲げてきた比だったが、今大会は惜敗。中国は自国開催ということもあり、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)とほぼ同じメンバーでかなり本気。試合は前回19年のアジア選手権大会で中国に勝利したときの投手を起用し、途中まで相手打線を抑え、前大会同様、好投だったが、相手の投手陣の球速が速くて、変化球のコントロールも良く打てなかった。0-2で敗北したものの、熱戦を繰り広げた比に対して周りから評価する声が多く聞かれた。

 最終戦はラオス。近年、韓国コーチらが入り、成績を伸ばしている。試合には勝ちはしたものの、予想より打てなかった。

 大会は台湾を2-0で下した韓国が優勝し、4連覇。韓国と台湾は同大会で優勝すると、兵役義務が免除されるようで、両国のチーム構成はほぼプロ選手。韓国には160キロを投げる投手や米大リーグ(MLB)に行く予定の高校生もいたようだ。また台湾も米マイナーリーグや国内のプロリーグの選手で構成されていた。決勝を選手らと観戦していたが、プロ選手によるレベルの高い試合が見れ、比選手にも良い刺激になった。

(注1)第19回アジア競技大会の試合結果。

 予選第1試合 フィリピン 0-6 日本 ▽同第2試合 中国 2-0 フィリピン ▽同第3試合 ラオス 0-7 フィリピン ▽順位決定戦第1試合 香港 1-5 フィリピン  ▽同第2試合 タイ 1-11 フィリピン

 ―アジア四強とも対戦。

 アジア野球連盟(BFA)が主催するアジア選手権では第4位を獲得した(注2)。台湾で行われた同大会で比代表は幸いなことに新設された台北ドームでのこけら落としのゲームに登場。大阪ドームと同じ芝だという球場で全試合プレーできた。開幕試合には元日本プロ野球選手の王貞治さんが始球式で投げていた。

 予選はタイ、パキスタン、日本の組み合わせで、西アジア大会優勝国のパキスタンに勝つことが決勝ラウンド進出の鍵だった。

 初戦タイ戦は終わり間際に点数を奪われたが大量得点を取り、危なげなく勝利した。肝となるパキスタン戦は一番安定している投手を先発させ、完投。クリケットが盛んで強肩の選手が多いパキスタンは米国でプレーする選手も招集している強豪だった。接戦をなんとか制し決勝ラウンドへと駒を進めた。

 予選最終の日本戦は決勝ラウンドに向けてレギュラー選手を休ませ、控え選手の起用も考えていたが、経験を積ませるために、結局レギュラー選手を起用した。負けてしまったものの、失策が少なく、安打6本と得点1点をもぎ取ったことは大きな成果だった。

 決勝ラウンドでは、勝つことこそできなかったが、プロ選手で構成される韓国や台湾相手に良い試合ができた。韓国戦では2点を奪い、相手投手をノックアウトした。アジア四強の台湾とはまさかの接戦。3位決定戦を見越して控え選手で臨んだが、予想以上のシーソーゲームを展開し、途中からレギュラー選手を出していったが、最終的には1-2で敗北した。一方、周りからは驚きの声とともに、かなりの高評価をいただいた。

 アジア上位である日本や韓国、台湾との対戦や観客約2万人のなかでの台湾戦など良い経験が積めた。コールド負けが無かったことが何より成長を感じた。

 (注2)第30回アジア選手権大会結果。

 予選第1試合 フィリピン 14-4 タイ ▽同第2試合 フィリピン 4-2 パキスタン ▽同第3試合 日本 9-1 フィリピン ▽決勝ラウンド第1試合 韓国 8-2 フィリピン ▽同第2試合 台湾 2-1 フィリピン ▽3位決定戦 韓国 7-0 フィリピン

 ―2023年を総括して。

 国際大会通して、アジアの強豪相手にコールド負けが一度も無かった。アジア競技大会に初めて参加するなど、私自身も貴重な経験をすることできた。そして選手たちに決勝ラウンドにも連れていってもらった。コーチをしているデラサール大学野球部が大学リーグ戦で優勝、自身が設立したクラブ野球チーム「KBAスターズ」も比国内の野球リーグで準優勝した。とても充実した1年になった。

 

 ―見えてきた課題は。

 投手陣としては育成・世代交代が課題。現代表の主戦投手の年齢が35歳。あと、アジア四強との差が大きい。今後、大学の有望な選手を代表の練習に招集し育成に注力していきたい。打撃面では140キロ以上の球が打てないことが課題。国内で140キロを投げられる投手も少なく、練習自体が難しい。現在打撃マシーンの購入をフィリピン野球協会に依頼中。加えて失策を減らせば、アジア四強相手でもコールド負けせず好試合が望める。安定した守備を突き詰めていきたい。

 ―注目選手は。

 デラサール大のデ・ベラ選手で、代表中心選手からポジションを奪って現在レギュラーの遊撃手。守備が素晴らしい。また今回のアジア競技大会に出場した日本の独立リーグでプレーする日本育ちのジョニル・カレオン選手はプレーだけでなく、心の支えにもなっていた。今後も招集してプレーしてもらいたい。

 ―今後の目標は。

 今年開催予定の東アジア杯で優勝を目指したい。同大会の上位2チームがアジア選手権への出場権を得る。因みに、比は同大会の開催国に立候補しており、選ばれれば11月にクラークで開催される可能性がある。

 また25年に、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の予選がある。アジアから台湾、中国の2カ国が招待されることは有力で、もし3カ国となる場合、フィリピンが呼ばれる可能性が出てくる。出場枠に食い込めるように国際ランキングを上げ、WBC予選に出場することが目標。できるなら予選を勝ち抜き、WBC本選で日本と対戦してみたい。

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