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移民1世紀 第3部・新2世の闇と未来

1. 行方不明の父はどこに

マイケルさん(左端)が大学を卒業する直前、デリアさん(中央)に末期がんが見つかった

 日本人のフィリピン移民開始から百周年を迎えた二〇〇三年四月下旬。西ネグロス州バコロド市内のホテルで比日系人会連合会(会員約一万人)の第七回全国大会が開かれた。参加者は、戦後、比に取り残され苦難の道をたどってきた日系二世とその子、孫ら約二百五十人。「失われた二世の戦後」を日本出稼ぎで取り戻そうと熱い議論が続く中、会場外の人気のないロビーに一組の母子が立っていた。「日系人会の会員ではありませんから……」と会場に入るのをためらっていた。

 母はバコロド市生まれの比人女性、デリアさん(55)。子は長男のマイケルさん(26)。マイケルさんの父親は、一九七〇年代に首都圏で旅行ガイドをしていた日本人男性(51)で、七四年十二月にデリアさんと結婚した。しかし、マイケルさん誕生から二カ月後の七七年五月、マニラ市内にあった自宅から突然姿を消した。

 「一カ月ほどたって知人から『あなたの夫は日本へ帰った』と告げられた。夫はいつも比人の悪口を言っていました。比と私たちを捨て日本へ帰ったと悟りました」とデリアさんは当時を振り返る。

 母は化粧品セールスなどをしながら子供を育てた。子は菓子売りなどで家計を助けながら、通常より数年遅れで小学校、高校を卒業、奨学生待遇で大学入学を果たし母親の期待に応えた。

 しかし、大学の卒業式を間近に控えた二〇〇三年四月、デリアさんが末期の子宮がんにかかっていることが判明。さらに、学費の一部三千ペソが未納だったため卒業証明書を受け取れず、「大卒として就職活動もできない。アルバイトで稼いだお金は鎮痛剤代と食費に消える。どうしても三千ペソをためることができない」(マイケルさん)状態が今も続いている。

 末期がんの母。そして三千ペソに就職を阻まれるもどかしさ。マイケルさんは「最後の希望」という父を探すため、機会があるたびに父の名前をコンピューター画面に打ち込み、果てのないインターネット空間で同姓同名の人捜しを続けている。最近も「父と同じ名前の人が米国にいることが分かった」と言うが本人かどうか確証はない。

 地元の国会議員を通じて、在比日本大使館に父あての手紙を送り、所在確認を依頼したこともあった。

 手紙には「あなたが去った後、私たちの生活は惨めなものに一変しました。人生は暗闇に沈み未来はなかなか見えません。いつか私も父親になるでしょう。同じ辛苦を子供に味わせたくありません。母を助けるという夢も壊したくありません。(中略)あなたを愛しています。あなたに一目会いたい」と父への思いをつづった。大使館からの返事は来なかった。

 どうしようもない現実に八方をふさがれる中、母子は「ジャパニーズ・フィリピーノ(日系人)」という言葉にすがるようにして大会会場外のロビーに立っていた。「夫、父のことを知っている人がいるのではないか」。「誰か助けてくれる人がいるのではないか」と。

        (つづく)

 年間企画「移民一世紀」の第三部では、戦争で比に取り残された戦前・戦中生まれの日系二世の存在を踏まえながら、父親に捨てられるなどして生活に困窮する戦後生まれの「新日系人」にスポットを当てる。(酒井善彦)

(2003.9.8)


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