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移民1世紀 第1部・1世の残像

10. 日系人社会の再生願い

日系人を訪ねるため、つえを突きながらバギオ市周辺の山道を行くシスター・テレジア海野・日本人移民80周年記念誌から

 日本人移民八十周年に際してベンゲット州バギオ市の日系人組織が作成した記念誌に、日傘代わりにこうもり傘を差し、つえを突きながら山道を行く修道女の写真が掲載されている。「何か自分にできること」を探し求めてフィリピンへ渡り、一九八九年十二月に七十八歳で亡くなるまで十八年間、日系人の救済に尽くしたシスター・テレジア海野=本名・海野常世、静岡県出身=の姿だ。

 移民と同様、海野さんの出発点もベンゲット(別名ケノン)道路だった。マニラから同市の福祉施設へ向かうバスの車内で、道路建設に日本人移民が従事したこと、そして戦後比に残された移民の子供たちが隠れるようにして生きていることを聞かされた。

 「日系人はどこで、どうしているのだろう」。海野さんは一九七二年、福祉施設で働く予定を変更して日系人探しを始める。同市内から周辺部の山間部へ分け入り、比人として生きる日系二世を訪ね歩いた。戦争によって切れた、日系人を結ぶ糸を一本ずつたぐり、つむいでいく作業だった。

 同年十二月までに百二十五家族を見つけ、バギオ市の日系人組織「北ルソン比日友好協会」(ドロシー・ヤマシタ・キレイ会長)を発足させた。「私たちは貧しくてもいい。子供たちに教育を」という二世たちの声を受けて奨学金制度もスタート。この世を去る二年前の八七年には、財団法人「北ルソン比日基金」(カルロス寺岡理事長)を設立、制度運用を日系人自身の手に委ねた。当初四人だった奨学生は現在二百十八人まで増えた。

 寺岡理事長の妹マリエさん(68)は言う。「シスターがいなかったら、私たち二世は日系人だと名乗れなかった。今は堂々と名乗れます。日系人にとってシスターは神の使わした天使でした」

 シスターの死後、九〇年代に入ってからは、ダバオ、セブなど全国十五の日系人会が集まり「比日系人会連合会」を結成。「書類がなく九五%は日系人であることを証明できない状態」と日系人の人数さえ把握していなかった日本政府に、二世の身元調査と日本国籍確認を求める運動を始めた。

 二世らが集団帰国と陳情を繰り返した結果、政府は九五年と九七年の二回、身元調査を実施し、二世二千三百人が名乗り出た。うち七割近くは一世との血縁関係を証明する書類を持たず、身元不明になっていることも判明。しかし、政府は調査をしただけで、肝心の身元確認、戸籍への登載作業は同連合会と支援者任せの状態が続いている。

 北ルソン比日友好協会によると、ルソン島北部の日系人数は二〇〇二年八月末現在で、二世三百八十六、三世千八百二十九、四世三千百十六、五世七百四十二、六世八人。比全土の二・六世の総数は五万人を優に超えるとされる。

 二世の戸籍登載が進むにつれ、日系人向けの定住ビザで日本へ出稼ぎにいく三、四世が増えていった。九九年には出稼ぎに伴うトラブルを防止するため、日本語や日本の習慣を教える研修センターが連合会の関連団体「比日系人互助財団」により設置された。

 これまでに四十日間の研修を終えた卒業生は約千三百人。寺岡理事長は、シスター海野の尽力、一世紀前と裏返った日比関係を踏まえ、卒業式で以下のようなはなむけの言葉を送ることにしている。

 「戦前は日本が苦しかった時代で一世たちは比へ来て懸命に頑張った。そのおかげで日系人は豊かな生活をしていたが、戦争のためにどん底へ落ちた。私たちは日系人の生活をよくしたくてこの仕事をしている。今は出稼ぎの流れが逆になったけれど、皆さんは日本でしっかり稼いで日系人の地位向上を図って欲しい」 (第一部おわり)

(2003.1.11)


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