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内山安雄のフィリピン取材ノート

第1回 ・

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 冒険小説『樹海旅団』(光文社文庫に所収)の取材で、ボルネオ島と目と鼻の先に位置するフィリピン領、スルー諸島の国境近くの小さな島を訪れた。

 目的は反政府イスラム武装組織に従軍することだ。が、つかの間の余暇を利用して、現地の若者に連れられて登山に出かける。

 山といっても、標高は千メートルしかない。ただし熱帯のジャングルとあって、山中はサウナさながらの炎熱地獄、小一時間も歩くと流れ落ちた汗がスニーカーにたまるほどだ。そこで、なんとも愛らしく、なおかつ珍しい生き物を見かけた。

 山の頂上を目前にしたあたりで、昆虫らしきものが盛んに木々の間を飛びかっている。初めはバッタかイナゴくらいに思ったが、それにしてはちょっと大きすぎる。小鳥かなと思ったが、動きが俊敏すぎて、その姿をつぶさに確認できない。

 じきに人間に慣れてきたその生き物が、私の頭のてっぺんや肩を踏み台にして、木から木へと飛び移るようになった。目をこらして観察すれば、昆虫か小鳥に見えていたのは他でもない、れっきとした猿ではないか!

 親猿でも体長は20センチ足らず、小猿ともなると掌にすっぽりと収まるサイズだ。

 正式な名前はわからないが、現地ではミゼットモンキーと呼ばれている。我々が山頂でへたばっていると、好奇心旺盛なミゼットモンキーが、何百匹となく周りに集まってきた。4、50センチまで接近してくるのだが、とても警戒心の強い生き物らしく、決して人間にさわらせようとはしない。たとえ餌を与えても人間の手からじかに受け取ろうとしない。

 あまりにもミゼットモンキーが可愛らしいので、ふもとの集落に戻ってからマーケットで同じものを買い求め、当時住まいのあったマニラに持ち帰ろうとした。が、残念ながらワシントン条約で持ち出しが厳禁されているのだという。

 娯楽のない南国の島で、ミニチュアサイズの猿を飽くことなくながめているだけで、飛行機と船を乗り継いで絶海の離れ小島を訪ねた甲斐があった、というものだ。

 ちなみにこの島は外界から隔絶されているために、他にも原始的な特徴を備えた珍しい生き物が幾種類も生息しているという。

 何でもマウスディアと呼ばれるネズミにそっくりの顔を持ち、胴体は鹿にそっくりの珍獣がいるとか。いったいどんな生き物なのだろう。機会があれば、何もないけれど太古からの大自然と生き物がそのまま残っている島をもう一度訪れてみたいと思う。

 ▽うちやま・やすお 1951年北海道生まれ。慶応大文学部卒。放送作家、脚本家を経て、80年『不法留学生』で小説家デビュー。毎年、セブ・マクタン島のリゾートにに滞在し、執筆活動。フィリピンを題材とした作品も多く、主著に『大和魂☆マニアーナ 』(光文社)、『フィリピン・フール』 (ハルキ文庫) 、『マニラ・パラダイス』 (同)、『樹海旅団』(光文社)など

(2013.6.17)

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